建設業の見積書に表示すべき項目として「法定福利費」があります。
法定福利費とは、「法令に基づき企業が義務的に負担しなければならない社会保険料(健康保険、厚生年金保険、雇用保険の保険料)」とのことです。工事の見積もりに含める必要があるのは「事業主(会社)負担分」となります。
・参考資料
国土交通省 法定福利費を内訳明示した見積書について
国土交通省 法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順
見積書に表示する法定福利費は次の方法で計算します。
「見積書の工事費に含まれる労務費」×「保険料率」
1.見積書の工事費に含まれる労務費について
まずは、「見積書の工事費に含まれる労務費」の集計方法について説明します。
どの資料を見ても見積書の中の労務費を集計して計算するように記載されていますので、この方法が基本です。
ですが、歩掛などを使用して積み上げている場合は積算ソフトを使用しないと労務費を集計するのは大変です。また、市場単価や土木工事標準単価を分解して労務費を集計することは困難です。市場単価や土木工事標準単価は内訳を持たないため、単価内の労務費が分からないからです。(弊社積算ソフトは過去の歩掛型の情報を残してあるため、そちらを使用して分解できます。)
市場単価や土木工事標準単価について
労務費の集計が難しい場合の一つの方法として、厚生労働省が公表している「労務費率」を使用して簡易的に労務費を算出する方法を紹介します。
下表が労務費率になります。この記事を書いている令和5年7月現在、最新のデータです。
厚生労働省 労務費率表 平成30年4月1日
事業の種類 | 労務費率 |
建設事業 | 31 | 水力発電施設、ずい道等新設事業 | 19% |
32 | 道路新設事業 | 19% |
33 | 舗装工事業 | 17% |
34 | 鉄道又は軌道新設事業 | 24% |
35 | 建築事業(既設建築物設備工事業を除く。) | 23% |
38 | 既設建築物設備工事業 | 23% |
36 | 機械装置の組立て又は据付けの事業 組立て又は取付けに関するもの その他のもの | 38% 21% |
37 | その他の建設事業 | 24% |
※労務費率表は3年に1度調査して次の年度に更新するようです。最新のデータを検索して使用してください。
掲載ページ:
厚生労働省 労災保険・雇用保険の特徴、
Google検索用リンク
(厚生労働省のページはタイトルに日付が表示されていない場合が多いです。
検索する際は、どれが新しいページが判断しづらいですのでご注意ください。)
事業の種類は見た通りに判断いただいて大丈夫ですが、念のため詳細を下記リンクから確認してください。
厚生労働省 労務費率調査 用語の解説
「広場の展圧又は芝張りの事業」は舗装工事業に含まれます。
見積書の工事価格が「1000万円(税抜)」で「その他建設事業」であれば、「1000万円×24%=労務費 240万円」と計算できます。
(労務費率を使用して計算する場合、見積書の工事価格には消費税相当額を含みません。)
厚生労働省 「請負による建設の事業」における労務費率を用いた労災保険料の算定について
簡単に労務費を算出できる労務費率ですが、様々な工事を平均にまとめて出した率なので、実際の労務費と異なる場合があります。こういう場合は見積書の中の労務費を集計することで正しい法定福利費を計算してください。
2.保険料率の確認方法について
次に、それぞれの「保険料率」を調べていきます。
御社の経理や給与の担当者が把握している基本的な情報ですので自社の状況を問い合わせてください。また、改定時期が異なりますので、保険料率の変更があった場合は担当者から連絡をもらえるようにしておくと適切なタイミングで更新を行えます。
- 健康保険
労使折半となりますので、健康保険料率を半分にします。
例えば、協会けんぽで東京都の場合は 5.000%(=10.00%÷2)です。
参考)協会けんぽ 都道府県毎の保険料額表
-
介護保険
労使折半となりますので、介護保険料率を半分にします。
令和5年度は0.91%(=1.82%÷2)です。
参考)協会けんぽ 介護保険料率について
ですが、介護保険料を支払うのは40歳から64歳までとなるので考慮する必要があります。
各工事に従事する作業員の年齢をいちいち確認できませんので、次のような考え方で補正します。
- 「協会けんぽの加入者の年齢階級別構成割合」を使用する
平均的な数値として、協会けんぽの事業年報概要に記載されている「協会けんぽの加入者の年齢階級別構成割合」を使用します。
この記事を書いている令和5年現在は令和3年版の事業年報概要が最新で、協会けんぽ被保険者で40歳から64歳までの構成割合は 56.0%です。
この場合、0.5096%(=0.91%×56.0%)となります。
参考)協会けんぽ 事業年報
- 補正しない
今回の工事に従事する作業員は40歳から64歳までしかいないと考えて補正しません。
この場合、0.91%となります。
- 社員の年齢構成割合を使用する。
自社で工事を担当する社員で40歳から64歳までの方の割合を使用して計算します。
例えば、工事を担当する社員20人のうち、40歳から64歳までの方が14人の場合、構成割合は 70%です。
この場合、0.637%(=0.91%×70%)となります。
-
厚生年金保険
労使折半となりますので、厚生年金保険料率を半分にします。
令和5年度は9.15%(=18.3%÷2)です。
参考)日本年金機構 厚生年金保険料額表
- 子ども・子育て拠出金
事業主が全額負担となります。
令和5年度は0.36%です。
上記、厚生年金保険料額表に記載されています。
-
雇用保険
事業主負担分となります。
令和5年度は 1.15%です。
参考)厚生労働省 雇用保険料率について
3.法定福利費の計算について
では、法定福利費を計算してみます。
労務費と保険料率は上で紹介した数値を使用します。
・見積書の工事価格は 1000万円(税抜)
・労務費は労務費率「その他建設事業 24%」で計算した 240万円
健康保険料率 | 240万円 × 5.000% | 120,000円 | 協会けんぽ 東京都の保険料率 |
介護保険料率 | 240万円 × 0.5096% | 12,230円 | 協会けんぽの年齢構成比で保険料率を補正 |
厚生年金保険料率 | 240万円 × 9.15% | 219,600円 | |
子ども・子育て拠出金料率 | 240万円 × 0.36% | 8,640円 | |
雇用保険料率 | 240万円 × 1.15% | 27,600円 | |
合計 | 388,070円 | 参考)保険料率計 16.1696% |
※ 個人事業主の方は計上する必要のない保険料があります。自身の状況を鑑みて、適宜調整してください。
見積書の工事価格の中に法定福利費を含んでいない場合は、法定福利費一式を内訳に計上して工事価格に加算します。
含んでいる場合は、「法定福利費○○円を含みます」のような書き方で摘要項目として見積書の表紙などに表示します。
4.(参考)法定福利費事業主負担額概算額を使用する方法について
もっとざっくりと簡単に計算したい場合は、国土交通省などで公表されている「法定福利費事業主負担額概算額」を使用します。下記リンクを開いてください。2021年12月1日に公表された資料です。
令和5年度「間接工事費の実績変更対象費の割合」及び「法定福利費の割合」について
国土交通書(一般土木)で集計した工種ごとの「法定福利費の平均割合」が記載されています。
この平均値は様々な工事を集計した値ですので
概算となりますが、下記の計算式で法定福利費が計算できます。
法定福利費概算額=工事価格(税抜)×法定福利費の平均割合
法定福利費概算額は、妥当な法定福利費の目安を計算するために官公庁等の発注者が作成したものです。
受注者が入札の際に見積もった法定福利費と法定福利費概算額とを比較して、必要な分を満たしているか確認します。
「受注者が見積もった法定福利費」が「法定福利費概算額の半分」を下回ったとき、受注者に対して法定福利費の確認を行うようです。